本文へスキップ

耕さない田んぼの稲つくり(冬期湛水・不耕起移植栽培)を南阿蘇で実践しています。

 

〒869-1411 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陰4486-19

耕すCULTIVATE

耕す
作物の栽培には、まず、耕すことから始める。
これが、教わり、延々と受け継がれてきた常識である。

稲つくりも、まず、耕す(代かき)ことから始めるが・・・。

◇「耕す」は、環境破壊!?

 土壌環境にどれほどの生きものが生息しているかと問われでも、答えに困るのが大方である。
 それもそのはずで、土壌環境で生息するミミズやヤスデやムカデやノミやダニなどは気持ち悪いからとの理由で敬遠してきたし、避けて通り過ぎるのが常識なのである。少々、知識を持っていても、有機肥料を熟成させるには彼らの力を借りるといった程度だと思う。
 ましてや、顕微鏡で覗かないと観察できないバクテリアやコウジ菌などの菌類が土壌環境に生息していると言われても、目に見える虫以上に関心がないのは、当たり前と思う。

 土壌微生物をテーマにした番組や、土壌微生物を農業に生かそうと研究している方の話によると、植生が豊かな森の土「1g」には約50億のバクテリアと称される微生物が生息していると言われている。
 そして、土壌環境に生息する微生物の生態は、最近、培養の仕方を改めることによって解明が進み始めたばかりで、ほとんどは未知の微生物と言われ、どれくらいの種類がいるかさえ判っていない状態という。
 また、世界中で研究投資が盛んに行われている新しい分野に、植物と共生する微生物の研究や発見があり、農業のあり方を根底から覆すような発見がなされはじめている。

 いずれにしても、土壌環境ではとんでもない個体数の未知の微生物たちが、ミクロワールドを構築しており、作物の栽培を通して人間ともつながっていることになる。

 このような土壌環境の状態を知ると、「耕す」ことが彼らにどのような影響を与えるのだろうか?との素朴な疑問が浮かぶはずである。
 土壌環境で生息する微生物たちは食物連鎖でつながりだったり、あるいは共生にてつながりあったりしており、耕すことによってその環境を破壊し、彼らの生息活動を大きく阻害しているのである。
  つまり、これまでの耕すことによる作物の栽培は、無知が故の鬼となって、多くの微生物を死の淵に追いやっているのは間違いないのである。

◇土壌環境に生息し、植物と共生する微生物

 一般的に知られている植物と共生する微生物に、マメ科植物の根に限定して共生する根粒菌があげられる。
 根粒菌は空気中のチッソを植物が使いやすい硝酸塩に転換して供給する代わりに、豆科植物から光合成で得られたリンゴ酸などの栄養分をもらっている共生の関係である。

 根粒菌以外の土壌環境に生息する微生物を挙げると。
 菌根菌の一種であるアーバスキュラー菌根は、陸上植物の8割以上の植物と共生関係を持つといわれており、アーバスキュラー菌根は土壌中のリンを供給したり、植物が兼ね備えている防御システムのスイッチを入れることで菌からの攻撃に打ち勝ったり、水分吸収を促進するなどの機能を提供する代わりに、光合成で得た栄養分をもらう共生関係を築いている。
 
 これらの菌根菌は植物の体内(根や葉や茎)で住処を設けるためエンドファイトと呼ばれており、根の表面に住み着いて病原菌の侵入を防ぐエンドファイト、根の中心部に住み着いて植物が元々持っている耐寒性の機能を起動させるエンドファイト、葉の中心部に住み着いてチッソを供給するエンドファイト、葉の表面部に住み着いて病原菌の侵入を防いだり、虫の食害を最小限にするエンドファイトなど、色々なエンドファイトが植物と共生していることが判り始めている。

 これらの菌は動植物の多様性豊かな環境で発見され、その機能性が確認されていることから、動植物の多様性を考えるとき土壌環境に生息する微生物も含めて考えなければならないことになる。


参考にした書籍や情報:
 (1)エンドファイトの働きと使い方=作物を守る共生微生物=(成澤 才彦著、農山漁村文化協会刊)
 (2)NHK サイエンスZERO つながる生物の謎 土の中の小宇宙(2010年06月05日放送)
 (3)NHKクローズアップ現代 微生物とつながる農業(2010年11月01日放送)
 (4)エコシステム、2005年11月(特集:グロマリンの発見=世界の農業を変え、地球の温暖化を防止=)
    エコシステムは財団法人日本生態系協会の会報誌。